→つづき
新しいバイトと掛け持ちを始め、今のバイト先から疎遠になりつつある筆者は、クオ田からバイト先の話を聞くと知らない事だらけであった。
なにやらリスのような小柄で可愛い新人の女の子がクオ田の新たなお気に入りだという。
浮気とかは疑っていないが筆者の居ない飲み会でリス子達と楽しくやっているらしい。
それを嫌だと言う権利は筆者には無い。
リス子は可愛いがさすがに10代に手は出せないだろうし、みんなのアイドル的存在でクオ田なんか相手にされる訳がない。
また、小太りのおじさん臭い残念な男(名付けて小太男)がケバ子の事を好きなのだと面白がって教えてくれた。
ケバ子に競争心を持っている筆者としては残念な男に好かれているのが滑稽で、
「ケバ子の事が好きって珍しいねー?笑」
「いやでもケバ子色気あんだよなー笑」
「えーー嘘でしょー!?笑」
なんて笑って話していた。
クオ田と付き合ってから筆者の性格は明らかに悪くなっていた。
会う日数は前より少し減ったが、それでも週3は会っていた。
変わらず愛は感じていたし何も2人の関係に変化は感じていなかった。
むしろ筆者は以前より夢中になっていた。
付き合った当初そんなに恋心があった訳ではなかったが、「最近クオ田の事めっちゃ好きでしょ?笑」と本人に言われてしまう程に惚れていた。
相変わらず交際は隠しているので皆の前では『クオ田が一方的にアプローチするも報われない』という付き合う前の設定を継続していたが、不思子と彫刻くんとのダブルデート中、2人が目を離している隙にキスをしてきたり、秘密だからこそのスリルがある恋愛にキュンキュンしていた。
この日は気持ちが高まって2人になるのが待ち遠しく、解散後いつものようにクオ田のお家に行こうと思ったら
これからバイト終わりの人達とオール飲みをするという。
聞いていない。
筆者と会う日の後に勝手に他の予定を入れているなんて初めてだ。
今までならバイト先の飲み会は全て誘われていたが、会う日数を減らす宣言をしてからは筆者の居ない飲み会を楽しむようになっていたようで、「私も参加する!」と言うと少し嫌な顔をされた。
何か都合が悪い事でもあるのだろうか。
バイト終わりの人達を待っていると、ケバ子が現れた。
コミュ障でお酒もほぼ飲めないケバ子が飲み会に参加してるとこなんて一度も見た事が無かったので
「え、何で居るの??」
と思わず言ってしまい、
ケバ子も「え!?」と居づらそうにしていると
「俺が呼んだんだよ」とクオ田が言った。
えーーー…意外……
クオ田は誰でも構わず誘うタイプだが、いつも飲み会に来ないケバ子がクオ田の誘いで来るなんて。
いかにもクオ田はケバ子の苦手そうなタイプなのに。
飲み会中クオ田の隣をキープしていると、先程のダブルデートではあんなにデレデレだったくせになんだかソワソワして居心地悪そうにしている。心なしかケバ子も残念そう。
何の根拠も無いが、今日はケバ子と仲良く飲みたかったのかもしれないと無意識下で感じていた。きっとそれもあって筆者もヒートアップしていた。
「ケバ子は小太男と同じ方面だから一緒に帰ったら?私は漫喫で始発待ってから帰るわ!」と言ってクオ田の家と同じ方面の漫喫に行くフリをしてクオ田と一緒に家に向かった。
オール明けのダルい朝に自分だけ帰らず彼の家に泊まる優越感に浸っていたが、ケバ子はガッカリしていたし、クオ田もなんだか不服そうに見えたのが印象に残っている。
2人の関係は全く疑っていなかったのだが、
絶対的な違和感は確かにあった。
翌日ケバ子と2人でゴハンに行くと
「本当にクオ田くんと何もないの!?怪しい!!」と本気で疑ってくるので、
潜在意識で怪しんでいたクオ田とケバ子の関係は顕在意識に浮上する前に疑いが晴れた。
翌週には久しぶりに歌子と3人でゴハンに行く事になり、バイトを辞めている歌子にはこっそり付き合っている事を告げた。
ケバ子が「最近バイト先の人と凛々華怪しいんだよ〜」と歌子に言うが、ケバ子だけが知らない現状が以前と立場逆転できていて気持ち良かった。
近頃違和感を覚える場面がチラホラあってもクオ田とはラブラブだった。
前日会ったばかりだというのに夜中に会いたいと言われ、来てと言ったら夜中の3時に片道1時間かけてタクシーで来てくれて、筆者を拾ったらとんぼ返りでクオ田の家に向かった日もあった。なんて金の無駄遣い。無意味で馬鹿げている程、情熱的でドラマティックで愛を感じた。
だが私達の関係はある出来事をきっかけに転機を迎える。
→つづく