→つづき
あんなに頑張っていたバイトもやる気を失い、ゆとりシフトにしている間に、新人のクオ田は最年長でフリーターという事もあってバイト内の地位を一気に上げていた。
最初は腰が低く誰にでも敬語だったが、気付けば気の強いオープニングスタッフ以外にはタメ語で上からくるようになり、オラオラ系のムードメーカーキャラとなっていた。
コイツ誰だっけ?と思ってしまう変貌ぶり。
クオ田の声掛けでバイト後数人で飲みに行く事が増えたが、いつも誰かを馬鹿にし、嫌な弄り方で笑いを取るスタイルだった。筆者との距離を縮めるにも他の男をダシに使ったりしていた。
今だったらそんな性格の悪い男にはすぐ見切りを付けるのだが、若かりしあの頃は解っていなかった。
女には毎回一銭も出させずに奢ってくれるし、自分はチヤホヤされてそれなりに楽しいから飲みに誘われたら毎度ついていっていた。
当時、アラサーはおじさんだと思っていたし恋愛対象外だった。
しかし、みんなの上に立ってオラついているキャラなのに自分にはメロメロな感じに居心地の良さを感じていた。
好みで言ったら完全に王子先輩の方がタイプなのに、日々一緒に過ごす時間が長いと自分にとって必要な人のように思えてきてしまう。
さて、どうしたものか。
答えを出す為に占いに行った。
(この頃から成長してない)
すると、自分から攻める恋は向いていないから向こうから来てくれる恋を選んだ方が良いとの事。
まさに自分から攻めようとしていた恋と責められている恋の狭間に居たので、占い結果がしっくりきてしまった。
占いが終わってケータイを見ると丁度クオ田からの着信履歴が。
それもまた運命を示しているかのように感じてしまった。
折り返し電話を掛けてみると
「モーニングコールしてって言ったじゃないすか〜!凛々華さんのせいでバイト遅刻だ😭」
という用件だったらしい。
いや、起きれてるやん。
わざわざ電話かけてくる時間の余裕あるやん。
連絡を取る為やコミュニケーションを深める為のウザい嘘に今だったら興醒めだが、当時の筆者はもう少し寛容であった。
気持ちがクオ田の方に傾きかけていたのもある。
とはいえ、この頃からアプローチがエスカレートしてきてさすがにウザかった。
ちゃんと告白してくれた訳でもないのに「ね〜いつ付き合ってくれんの〜?笑」と本気か分からないノリでしつこく聞かれる日々。
バイト先で2人きりになったタイミングで、ついにデートに誘われた。
いざ2人で休日に会うとなると歳もかなり上だし危険な香りがするしなかなか勇気が出ず、かなり渋っていたのだが、あまりにしつこいので押され負けて翌日行く事になった。
勇気を振り絞って気合いを入れてドキドキで当日向かうと、普段筆者に全力でアプローチしてくる時と打って変わってテンションが低く口数も少なくて初めての超アッサリ対応。笑顔も少ない。
ん??
あれだけデート行きたがってたくせにどういう事???笑
海の件に続き、クオ田の押しては引いて押しては引いて攻撃にまんまとハマっていったのだった。
せっかく2人きりで初めてオフの日に会ったというのに映画を観終わったらバイト先のメンツを呼んでゴハンに行こうと言う。
あれだけ2人きりで会いたがっていたくせに本当に訳が分からない。
合流したのは男女ペアだった。
女の方は筆者と同期のオープニングスタッフなので付き合いは長いが、ちょっと上世代の20代半ばだというのに赤ちゃんみたいな喋り方をする不思議ちゃん。不思子と名付ける。
天然な不思議ちゃんでは無く、頭が良く仕事もできて素が出ると低い地声が出るので、キャラを作ってるのがバレバレという稀なタイプ。
男の方は彫刻のような美しい顔を持つイケメンだが、背が低く痩せていて頬がこけている。
性格は暗くて笑う事もなく、幸の薄さが表情から現れている。彫刻くんと名付ける。
クオ田と不思子は仲が良く、筆者も呼ばれて3人で飲んだ事もあったが、彫刻くんはお初。
しかし、やたら親密に見える不思子と彫刻くん。この2人何かあるのか…?
不思子には同じバイト先の他セクションで付き合ってる人が居る事が最近発覚したばかりだ。
しかも筆者と同い年のイケメン。
彫刻くんも筆者と同じ年のイケメン。
不思議だった。
何故そんな歳下イケメン達を手玉に取れるのか。
正直、不思子は男ウケが抜群に悪いと思っていた。異常に長いが手入れしていないボサボサの髪にすっぴん眼鏡、ハリのない肌、洗ってなさそうな服、同性では珍しく清潔感が無いと感じていた。
しかしクオ田も「お前気持ち悪ぃなー!笑」と言いながらも親しくしている。
何か男達を翻弄する魅力があるのだろうか。
4人で焼肉に行った後、カラオケで散々飲んだ。というかクオ田に飲まされた。
不思子と彫刻くんが軽くイチャつき始めた。
マジか。マジで2人そういう仲なのか!?
かなり酔ってしまい意識朦朧の中、クオ田に介抱され、なんとなく2:2でそれぞれ良い雰囲気になってしまった。
それでも潰れている筆者に手を出してこないクオ田に気を許し始めていた。
そして、間が開いたがついに、王子先輩と約束していた花火大会の日がきた。
2人きりでは無いが、改めて一緒に過ごしてクオ田とどっちの方が好きなのか判断しようと考えていた。
→つづく